ライターが知っておいて損はない「記者ハンドブック」の使い方

この文章では、『固い』『堅い』『硬い』のどれを使うのが適切なのだろうか? 
 
文章を書いていると、この言葉の選択で合っているのかと迷ったり不安になったりすることはないだろうか? そんなときに便利なのが「記者ハンドブック」である。これは、新聞記者必携のハンドブックで、正確な文章表記や表記の揺れの防止などを目的に編集されている。記者ハンドブックは、各報道機関によって発行されているが、今回は共同通信社が発行する記者ハンドブックの基本的な使い方を5つ紹介する。 

1.その表現は本当に正しい!? ~用字用語集 

用字用語とは、文章執筆の際にいるや単のことで一番見る機会が多いページである。使用法に迷う用字用語はほぼ網羅されており、この使用のためだけに買って良いと思うほど、重宝する。 
 
ページをめくると下記のように適切な送り仮名の付け方や同訓異字や同音異義語の使い分けが例示されている。 

「おこなう」⇒「行う」 ※「行なう」ではないということもわかる。 
 
「あたたかい」⇒温かい [一般用語。冷の対語] 温かい心、温かい食べ物、体が温かい 
       ⇒暖かい [寒の対語、主に気象・気温に] 暖かい気候、暖かい室内、暖かいセーター 

たとえば、「ボランティアの『あたたかい』心に救われた」という文章を書くとする。「あたたかい」を検索すると、「温かい」と「暖かい」があることが分かる。さらに、それぞれに使用例が記載されているので、今回の場合は「温かい心」を使うのが適切だということがわかる。 
 
ハンドブックは、1956年の初版から現在までに13版が発行されている。版を重ねるごとに記載内容は再検討されているため、本当に間違いやすい箇所だけを集めた用字用語集となっている。 
 
また国語辞典との違いは、その用字用語の意味が説明されているのではなく、あくまで使い方や使い分けが解説されているということである。機械的に、より適切な言葉を選ぶだけのため、ライティングの時間も短縮できる。ちなみに、現在のウェブライティングでもこの基準をもとに執筆。なお、状況に応じ各クライアント様(メディア)の表記ルールをアレンジしていくことも必要になる。 

2.風邪で「ぜーぜー」? 「ゼーゼー」? ~書き方の基本 

(1)「お菓子」と「御菓子」、(2)「あくまで」と「飽くまで」、(3)「ぜーぜー」と「ゼーゼー」。普段何気なく書いているこれらの言葉にもルールがある。 
 
ハンドブックでは、接頭語、接尾語は原則として平仮名にする基準があるため、(1)は「お菓子」、訓読みの副詞は平仮名が原則のため(2)は「あくまで」、擬態語・擬声語は片仮名で書くことが原則のため、(3)は「ゼーゼー」が正解となる。 
 
その他、平仮名/片仮名の使い分けで、たとえば星座名は原則平仮名書き(ex.おうし座)、ただしギリシア神話の人物名は片仮名書き(ex.アンドロメダ座)にすることなど、新聞で記載される可能性がある、あらゆるジャンルの平仮名/片仮名の使い分けが決められており、これは「書き方の基本/用字について」のページで、漢字使用/平仮名使用/片仮名使用の各項目にまとめられている。 

3.年齢早見表 

「○○年生まれの人って、いま何歳だろう?」 
意外と調べることが多いのが年齢と生年の対応。ネットでも調べられるが、ハンドブックの最後のページに一覧化されているので、さっと見ることができる。最新の第13版では1893年生まれから2021年生まれまでの早見対応が可能。西暦から年号へ、年号から干支への換算もまとめられているのでお勧めである。 
 
余談であるが、取材から記事掲載までに期間が空く場合、取材対象者に年齢だけでなく、生年月日も確認しておくと良い。些細なことだが、取材時と掲載時点での年齢が異なるという事態を防ぐことができる。 
 
ここからは、便利というよりは『雑学』になるが、時間のあるきにチェックしてみると新しい発見があるかもしれない。 

4.実は違っていた!? ~紛らわしい会社名 

実は表記と発音が異なる企業名があることをご存じだろうか。たとえば「キューピー」は「キユーピー」、「キャノン」は「キヤノン」と表記する。これは文字表記では拗音を大きく書くパターンで、歴史的背景や文字バランスの観点などが理由とされている。そのほかにも「日本コロムビア」「ドン・キホーテ」「ブルドックソース」などは、「日本コロンビア」「ドンキホーテ」「ブルドッグソース」と間違って覚えている方も多いのではないだろうか? 

5.誤りやすい用字用語・慣用句 

言葉を扱うことを生業にしていると、モノのたとえなどで慣用句などを使用することもある。しかし、使用法を誤ってしまっては元も子もない。勘違いして覚えていることも結構あるので、時間があるときに目を通しておくことをお勧めする。 
 
ちなみに 
 
(1)愛想を振りまく 
 
(2)合いの手を打つ 
 
(3)怒り心頭に達した 
 
はすべて間違い。どこがダメかお分かりになるだろうか? 
 
正解は(1)愛嬌を振りまく、(2)合いの手を入れる、(3)怒り心頭に発した、である。 

これは共同通信の自社基準のため、ウェブライティングでは、場合によってさらにマッチした形があると思われる。しかし、用字用語事例集のルールに則ってライティングすると、表記の揺れがなくなるため読みやすい文章になり、あとでまとめて修正する際にも便利である。文章の書き方の基本を押さえるには最適であるため、ぜひ一度読んでみることをお勧めする。 

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